直撃!フロントランナー
同志社大学「同志社ミツバチラボ」のメンバー(当時)が、ミツバチプロジェクトのフロントランナーにインタビューしたものをまとめています。
市立札幌大通高等学校
西野功泰さん
第6回は、市立札幌大通高等学校でミツバチプロジェクトを担当されている西野功泰さんです。
市立札幌大通高等学校では、学校内での教科ごとの関わりと高校と幼稚園のかかわり、地域イベントへの参加や蜜源植物の配布などで地域への還元を考えることで『環境』をキーワードとして、学校と地域社会との関係をより良くし、さらに密にしていくことを目指しています。
いつからスタートしたのですか?
2012年の春です。札幌市内の南区(緑の多いエリア)で、芸術科教員の島田先生が養蜂しており、職員がハチミツを食べたことをきっかけにスタートしました。私は商業の講座で、商品開発・原価計算・マーケティング等を学んだ生徒たちに、利益を出してプロジェクトを次年度に引き継ぐところまで挑戦させたいと考えていました。そこで、「プロジェクトにしてしっかりやろう」と思い、既存の授業内容にミツバチと蜂蜜を取り入れることを、数名の職員と共有していきました。その結果、教科横断的にミツバチプロジェクトを進めていけるようになりました。1年目は、教育委員会から助成金を受けることができました。翌年以降は蜂蜜や開発商品による収益によって活動費を生み出すことができるようになりました。
巣箱の設置場所について教えていただけますでしょうか?
学校の5階にある屋外スペースが養蜂場です。そこはガラス張りで、日常的にミツバチの様子を観察することができます。最初は2〜3箱からスタートしましたが、現在はかなり増えています。2年目からは、越冬にチャレンジしました。生徒たちが日常的に目にするところに巣箱を設置して良かったことは、生徒達がミツバチを「かわいい」と言いながら写真を撮ったり、スズメバチが飛来すると生徒がそれを伝えに来てくれたりすることです。
ハチミツの収穫量はどれくらいですか?
年によって違いますが、1年で300kg以上採れた年もあります。かなりの量が採れていると思います。見に来た人は「こんなに採れるんだ!」とよく驚かれます。
商品構成や商品ロゴに関して教えていただけますでしょうか?
商品名:天然蜜食べ隊
これは書道の授業で80名の生徒がデザインを考えました。書道のクラスでハチミツを試食しながら、ラベルデザインと商品名を考えた授業でした。校内で投票を行い、選ばれた作品を校内で完結することなく、札幌で活躍しているデザイナーさんと一緒にブラッシュアップしたいと考えました。そこで、生徒と一緒にお願いに行きました。すると、その方も喜んでくれました。ある時、その方にデザイン料を聞いてみたら、授業だから大丈夫と言ってくれましたが、実際には数十万円かかると教えてくれました。それを生徒に説明したところ、「先生、いつも本物を体験するって言っているでしょ。ちゃんと稼いで払おう」と生徒が言いました。そこでハチミツを販売し、デザイン料を支払いました。生徒の頑張りを認めたデザイナーさんからは、クマのキャラクターをプレゼントとしていただきました。このように、生徒の反応が毎回想像を超えてくるのが、ミツバチプロジェクトの面白いところです。
社会に伝えたい都市養蜂の醍醐味は何ですか?
札幌のど真ん中で、1次産業が見学•体験できるというのは非常に貴重だと思います。販売実習に取組むことで、1次産業から3次産業について学ぶこともできます。更に、周辺には企業も多いので、様々な協働も生み出しやすいのも魅力です。
生徒達にとっても良い経験に?
進路の話や、将来の目標を聞いたときに、自分で自分のことを語れない、自分に自信がない、コミュニケーションが苦手な生徒が多く存在しました。そのような生徒たちに何ができるかと考えたときに、もっと地域資源を教育に活用しようと考えました。高校の授業で商品開発を疑似的に行うこともできますが、「多様な大人の価値観に触れながら『本物の体験』をしてほしい」と思い、地域のプロフェッショナルな大人たちと商品開発を試みました。ハチミツが多様な人と繋がるパスポートの役割を果たしました。こうした実践を校外に発信することにより、「大通高校さん、一緒にこんなことしてみませんか!?」と地域の方達からお誘いをいただくようにもなりました。今では地域資源を活用した授業実践が学校の特色の一つとなっています。活動を通じて新たな自分を発見し、生徒一人ひとりの物語が生まれています。
生徒の発想で、西野先生が驚いたようなことなど教えていただけますか?
私達が学習プログラムを考えるとき、ある程度授業という枠の中で、生徒たちに到達してほしい目標を設定したりしますが、生徒がそれをはみ出したり、大きく超えてくるということがままあります。生徒達にずっと言い続けていることは、それぞれの取組みに「意味づけをする」ということです。最初は些細なきっかけでもいい、「ハチミツが美味しかったから」「面白そうだから」でも構わないけれど、活動した後はそのままにせず、自ら省察し、意味づけて、自分の物語として人に伝えることができるようになろう、と伝えてきました。ある時、生徒が「経済的な理由で進学できず、就職しなければならない」と相談してきました。でも、学校に届く高校求人の中からは、どうしてもやりたい仕事が見つからない状況でした。その生徒は、自分でオリジナルの履歴書ノートを作って、就職先を自己開拓し始めました。ミツバチプロジェクトを通じて、これまでになかった進路選択を自ら生み出したのです。他にもたくさんの物語が生まれました。教師の問いかけ、生徒の受け取り方によって、ミツバチプロジェクトは、自らの生き方や働き方を考えることにもつながる学びになっています。